最高裁判所大法廷 昭和24新(れ)1 判決
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人佐伯千仭上告趣意第一、第二点について。
所論連合国総司令部政治部から最高裁判所長官宛になされた指摘によつて「好ま
しからざる人物を公職より排除することは、一九四六年一月四日附最高司令官の指
令により要求せられているということ、その指令を履行するための機構並びに手続
は最高司令官の承認を得て作られたということ、総理大臣はその指令に従い取るべ
き一切の行為につき最高司令官に対して直接責任を負担しているということ、最高
司令官はこれに関する事項を一般的に政府の措置にまかしているが、これに関する
手続の如何なる段階においてもこれに介入する固有の権限を保留しているというこ
と、その結果として日本の裁判所は前述の指令の履行に関する除去又は排除の手続
(以下追放手続と略称する)に対しては裁判権を有しないということ」が明らかで
あるから、昭和二二年勅令第一号に基き覚書該当者として指定されたことが同令所
定の中央公職適否審査委員会又は内閣総理大臣の錯誤に基いてなされたか否か、従
つてそれが無効であるか否か等を審判する権限は、日本の裁判所に属しないことは、
既に当裁判所大法廷判決の趣旨とするところである。(昭和二三年(れ)第一八六
二号同二四年六月一三日大法廷判決参照)。さればかかる指定手続の効力のごとき
は日本の裁判所においては争い得ない拘束力を有するものといわなければならない。
従つて本件上告人の住所が内閣総理大臣にとり知り得る状況にあつたにかかわらず
上告人に通知しなかつたことは、追放令の仮指定手続が追放に関する法令の規定す
る要件を完備していないことになるとの論旨第二点は、右判例にいわゆる追放該当
者として指定されたことか無効であるとの主張に当るから、原判決が右論旨をもつ
て理由のないものと説示してこれを排斥したのは正当であつてこれを以て憲法三二
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条にいわゆる裁判を受ける権利を奪つたものとはいえない。次に内閣総理大臣が上
告人に対する仮指定をなすに当つて上告人の住所を知ることができなかつたもので
はない点について原審が証拠調をしなかつたことを非難する論旨第一点は前述の仮
指定の効力を争うものに外ならないばかりでなく、かかる刑訴法違反の主張は憲法
三一条違背の問題でないことは昭和二二年(れ)第一八八号同二三年七月七日大法
廷事件及び同二三年(れ)第二七七号同二四年七月一三日大法廷事件の判決の示す
とおりである。されば論旨はいづれも刑訴四〇五条一号に該当する適法な上告理由
とならない。
同第三点について。
上告人に対する本件仮指定手続の効力が日本の裁判所において争ひ得ないもので
あることは前に説明したとおりである。従つて、本件上告人に対する仮指定が法的
には存在しないか又は無効のものであることを前提とする本論旨は採ることができ
ない。
同第四点について。
仮指定の手続の効力については日本裁判所においてはこれを争い得ないものであ
ることは、前に説明したとおりである。然るに所論証人申請は仮指定の手続の効力
に関連する事項を証明せんとするものであるからその必要のないものであることは
明らかである。されば論旨は理由がない。
弁護人河野太郎上告趣意第一点について。
しかし、一九四五年九月三日連合国最高司令官指令第二号第一部第四項には「発
セラレタル何レカノ訓令ノ意義ニ関シ疑義発生スルトキハ発令官憲ノ解釈ヲ以テ最
終的ノモノトス」とあつて所論指摘の「総司令部政治部」は右「発令官憲」に該当
し且つ該指摘は、一九四六年一月四日附最高司令部の好ましからざる人物を公職よ
り排除することに関する指令の最終有権的の解釈を示したものであるから、日本の
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裁判所を絶対に拘束するものであること多言を要しない。されば該指摘をもつて最
高司令官の指令ではなく、従つて日本の裁判官を拘束しない旨の所論は当らない。
そして右指摘の趣旨は追放指定手続の効力就中その指定手続が内閣総理大臣の錯誤
に基いてなされ、従つてその手続が無効であるか否かについての審判をする権限も
日本の裁判所に属しないとする趣旨を含むことは佐伯弁護人上告趣意第一、二点で
述べたとおりである。論旨はそれ故に採ることができない。
同第二点について。
論旨として引用の弁護人佐伯千仭上告趣意については既に説明したところである
から、かさねてここには説明しない。
よつて刑訴四一四条、三九六条に従い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官真野毅の佐伯弁護人の上告諭旨第一、二点に関する補足意見を
除き裁判官全員一致の意見によるものである。
右真野裁判官の補足意見は、昭和二三年(れ)第一八六二号、同二四年六月一三
日大法廷判決(判例集三巻七号九七四頁)に記載する補足意見のとおりである。
検察官 十蔵寺宗雄出席
昭和二五年二月一五日
最高裁判所大法廷
裁判長裁判官 塚 崎 直 義
裁判官 長 谷 川 太 一 郎
裁判官 沢 田 竹 治 郎
裁判官 霜 山 精 一
裁判官 井 上 登
裁判官 真 野 毅
裁判官 小 谷 勝 重
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裁判官 島 保
裁判官 斎 藤 悠 輔
裁判官 藤 田 八 郎
裁判官 岩 松 三 郎
裁判官 河 村 又 介
裁判官 穂 積 重 遠
裁判官栗山茂は出張につき署名押印することができない。
裁判長裁判官 塚 崎 直 義
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